最高裁判所第一小法廷 昭和34年(あ)1527号 判決 1960年4月28日
主文
原判決を破棄する。
被告人を罰金四〇〇〇円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金二〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
公職選挙法二五二条一項の規定はこれを適用しない。
理由
検察官の上告趣意について。
原審が第一審判決の確定した立候補届出前における金品の供与及び供与の申込の事実につき、短期間内に継続反覆してなされた個個の事前運動の罪は複数の場合でも包括一罪であり、これと右供与及び供与の申込の罪とは刑法五四条一項前段の一所為数法の関係にあるから、結局全部を一罪として処断すべきであるとして、併合罪の規定を適用した第一審判決を破棄したこと及び所論各高等裁判所の判決(昭和二八年六月三〇日言渡福岡高等裁判所の判決及び同二九年一月一四日言渡広島高等裁判所岡山支部の判決)が、立候補届出前における金銭の供与及び饗応の所為につき、その届出前の所為の個数に応じ事前運動と供与及び饗応とはそれぞれ一個の行為で数個の罪名に触れるものとして刑法五四条一項前段、一〇条を適用した上、以上の事実を併合罪として処断したことは所論のとおりである。されば原判決は、右福岡高等裁判所及び広島高等裁判所岡山支部の判例と相反する判断をしたものというべきである。
而して、公職選挙法一二九条の規定は、常時選挙運動が行われることに伴う弊害を防止し選挙の公正を期するため選挙運動の時期を制限したに過ぎないものであるから、買収犯の如く法定の期間内であると否とに拘らずそれ自体違法な選挙運動行為が数個ある場合には、事前運動の場合でも各行為毎に犯罪が成立するものと解するのが相当である。従って当裁判所は前記各高等裁判所の判例を正当と認めるから、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。
よって刑訴四一〇条一項本文、四〇五条三号、四一三条但書に従い原判決を破棄し、さらに判決する。
第一審判決の確定した事実を法律に照らすと、金品の供与及び供与の申込の点はそれぞれ公職選挙法二二一条一項一号、罰金等臨時措置法二条一項に、事前運動の点はそれぞれ公職選挙法二三九条一号、一二九条、罰金等臨時措置法二条一項に各該当するところ、右供与及び供与の申込と事前運動とはそれぞれ一個の行為で数個の罪名に触れる場合であるから、刑法五四条一項前段、一〇条により重い供与及び供与の申込の罪の刑に従い処断すべく、所定刑中各罰金刑を選択し、以上は同四五条前段の併合罪であるから同四八条二項により所定の罰金の合算額の範囲内において被告人を罰金四〇〇〇円に処し、右罰金を完納することができないときは、同一八条により一日二〇〇円の割合により換算した期間被告人を労役場に留置すべく、なお公職選挙法二五二条三項により同条一項の規定を適用しないこととし、主文のとおり判決する。
この判決は、裁判官全員一致の意見によるものである。
(裁判長裁判官 高木常七 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫)